『舞姫』 森鷗外の自筆原稿、4600万円です。
高校の国語教科書には定番教材がいくつかあります。
明治の文豪といえば、夏目漱石と並んで森鷗外。『舞姫』は高校3年生で、『高瀬舟』は高校2年生で、読んだ記憶、ありませんか。
『舞姫』の冒頭文はあまりにも有名です。
「石炭をば早や積み果てつ。中等室の卓のほとりはいと靜にて、
『舞姫』は、短編小説ですが、教科書に掲載されている作品の中では長文で、高校生にはかなり手ごわい小説です。『舞姫』は、文語体ですから、もはや現代語訳がないとお話の内容がわからないという声もちらほら。映像化されたものを授業の導入として見せる場合もあります。
アニメもあります。太田豊太郎の声は、シャア…池田秀一さんです。
舞姫 森鴎外 MAIHIME OGAI MORI - YouTube
すっかり遠のいていた『舞姫』のニュースが気になりました。4600万が高いのか、そうでもないのかは、全くわかりませんが、自筆原稿があったことに驚きです。
原稿は丁寧な字で書かれているが、心の乱れを表すように文字が乱れている部分があり
活字では絶対に味わえない森鴎外の心の動きがよく見えてくるところに大きな価値がある
森鷗外の心が文字に表れている…
19世紀末、ドイツからの帰路、そのドイツでの出来事を回想して綴っています。
主人公太田豊太郎は、一心に学問に励み、明治時代の、エリート中のエリート、官吏となってドイツへ留学します。日本国をその身に背負い、国のために、志を高く持ってエリートの道をひたすら進むつもりでした。そんな時、彼は、薄幸の美少女エリスと出会ってしまうのです。二人の仲は深まり、仲間内にも知られ、ライバルの讒言により、豊太郎は職を解かれてしまいます。エリスとの生活は、初めは愛情に満ちたものであったのですが、生活のため得た新聞社の職から、豊太郎を取り巻く環境は変わっていきます。友人相沢健吉の紹介で、大臣のロシア行きに随行し、信頼を得、豊太郎は再び官吏として生きることを選びます。相沢健吉はエリスとの関係を断ち切るよう忠言し、豊太郎はエリスを捨てて日本へ帰ります。
エリスは、豊太郎の子どもを身ごもっていました。豊太郎のロシア行きから不安を抱え、帰国するのではないかと恐れて、心身ともに病んでいきます。相沢から真相を知らされたエリスはついに発狂し、パラノイアと診断されます。治る見込みのないエリスを置き去りにしたまま、豊太郎は帰国の途につきます。
「これよりは騷ぐことはなけれど、精神の作用は殆全く廢して、その
自筆原稿からはヒロインの年齢を実年齢から架空の「十六、七」に書き直した跡が確認できる。山崎一穎跡見学園理事長は「恋人への複雑な思いなど、鴎外の心の動きが読み取れる」と話している。
鷗外の研究者でもある山崎一穎(かずひで)理事長は、「エリスと出会う場面など、活字では味わえない書き手の息づかいが伝わってくる」と高く評価する。
森鷗外の自伝的小説ではないかとも言われている『舞姫』ですが、別にモデルがいるとも言われていますので、断言はできません。でも、自筆の原稿から、文字の震え、推敲のあとが見て取れることで、生々しさは十分に伝わるようです。
「嗚呼、相澤謙吉が如き良友は世にまた得がたかるべし。されど我腦裡に一點の彼を憎むこゝろ今日までも殘れりけり」
読後、生徒さんのほとんどは、太田豊太郎へ大バッシングです。エリスへの仕打ち、友人相沢への相反する評価に対して、豊太郎の身勝手さと精神の未熟さを感じ取ります。特に、男子生徒が怒りをあらわに感想を述べていたことも思い出されます。
今の時代から森鷗外や夏目漱石が生きた時代を見れば、個人でありながら、追い込まれた使命感や縛られた窮屈さに、隔たりを感じるのです。明治のほんの一部の選ばれしエリートや知識人にそう簡単に近寄ることはできません。でも、高校3年生の感情は、太田豊太郎が許せない。
自伝的要素の強い物語だけあり、エリスとの悲恋の場面などは、和紙に書かれた筆の文字に乱れや書き直しが確認できる
鷗外の隠し切れない人間の感情の表れだとすれば、また読み方も変わってくるかもしれません。公開されることを楽しみしています。