ちょっとナオ帳

なんだかまた書きたくなりました。それだけです。

あなた、待っていられますか

夢十夜

・夜寝たと思ったら、気が付けば朝になっているほど熟睡できるので、夢を覚えていません。きっと見ているはずなのに。ずっと前、若かったころ、友人は驚くようなことをしていました。寝たあと、「夢を見た」と思ったらすぐ起きて(夜中でも)、「夢」をノートに書く。それを続けていると、前に見た夢の続きを見ることもある… 

夢十夜 他二篇 (岩波文庫)

夢十夜 他二篇 (岩波文庫)

 

・「こんな夢を見た」で始まる第一夜。

腕組をして枕元にていた男(この夢を見た当事者)に、仰向に寝た女が、もう死にますという。女の静かな様子から男には彼女が死ぬことが半信半疑であったが、もう死にますとはっきりという彼女のことばから、彼もこれは死ぬなと確信する。彼女は男にある約束をする。ーー「また逢いに来ますから」

男はいつ逢いにくるかと尋ねます。ーー「日が出るでしょう。それから日が沈むでしょう。それからまた出るでしょう、そうしてまた沈むでしょう。――赤い日が東から西へ、東から西へと落ちて行くうちに、ーーあなた、待っていられますか

いつまで待つのか?ーー「百年待っていて下さい」

 

・小説の中で、女は次のように描かれています。

長い髪 輪郭の柔らかな瓜実顔《うりざねがお》 真白な頬の底に温かい血の色 唇の色は無論赤い 大きなのある眼 長い睫《まつげ》 真黒眸《ひとみ》 

おそらく、誰もが間違いなく美しい人をイメージしていますよね。その彼女は、理由はわかりませんが、死は避けられない運命でした。しかし、この小説の前半で、再生も予言されます。

 

彼は彼女がいった通りの方法でお墓を作り、その傍で待ち続けます。ーー百年。あまりにも長く待ち続けて、だまされたと思った その直後、青い茎が胸元まで伸びて真白な百合が一輪。花弁が開き、匂い、そこにぽたりと露が落ちます。

「花は自分の重みでふらふらと動いた。自分は首を前に出して冷たい露の滴る、白い花弁に接吻した」

そして、暁の星の見て、百年はもう来ていたことに気づくのです。

 

・ 一話完結の短い小説でありながら、ことば一つ一つや物語の設定の解釈を読み手にゆだねてくれる作品だと思います。例えば、研究者の間でも「百年」の解釈はさまざまです。一年生の授業でこれを扱ったとき、夢の話と知りながらも、幻想的な描写から醸し出される「あったらいいな」的な静かなキラキラ感に、(もうなんと表現したらよいかわからないくらい)生徒さん達は、それはそれはイメージを膨らませ、自分たちの解釈をいつまでも語り合っていました。やはり、さすが文豪の力です。百年後の女生徒達をわくわくさせてます。(李徴さんが虎になってまで固執した、死後百年名を残すということですね)

 

・これは、「夢」の話です。時を超えることもレム睡眠中にできます。ヒトの限界寿命は120年だったでしょうか?(「ゾウの時間ネズミの時間」を思い出しました)「あなた、待っていられますか」と言われて、20歳までに出会って、コンディションがよければ本当に待てるかもと思いつつ、いくら夢の中でも「百年待っていて下さい」を素直に受け入れた男の健気さ(※もとは「けなりげ」漢字からもわかるように健康なことです)がポイントだったのではないでしょうか、ね!?

 

ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学 (中公新書)

ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学 (中公新書)