太宰治「私を見殺しにしないで下さい」佐藤春夫への芥川賞懇願の手紙
芥川賞に自分の作品を選んでほしいと選考委員に頼んでいたというエピソードは有名な話です。佐藤春夫へも懇願していたと言われていましたが、それを証明する手紙が発見されました。
第1回から芥川賞の候補となりながら、どうしてももらえなかった芥川賞。太宰治の芥川龍之介への傾倒ぶりは、今風に言うと、"好きすぎる" "偏愛" "芥川推し" というような言葉で表現されています。
津軽のお坊ちゃん。自殺未遂、病気、薬物中毒、就職にも失敗。芥川賞の名誉と賞金、どんなに欲しかったでしょう。
全く才能や魅力がなければ、いっそ諦めきれるのに、そうそうたる作家たちにちょっと褒められたら、期待もします。どうしてもどうしても芥川賞が欲しい。
そこで、手紙を書くという手段に打って出ます。
佐藤さん、私を忘れないで下さい。私を見殺しにしないで下さい。いまは、いのちをおまかせ申しあげます
長い手紙を切り取った一部分の、切羽詰った言葉が、読み手の方に覚悟を迫っています。
川端康成にも手紙を送っています。
何卒私に与えて下さい。一点の駆引ございませぬ。〈中略〉死なずに生きとほして来たことだけでもほめて下さい。〈中略〉早く、早く、私を見殺しにしないで下さい。きっとよい仕事できます。
私を見殺しにしないでください ーー太宰の悲鳴です。
この手紙の前に、太宰治は、第1回芥川賞の、川端康成による選評「作者目下の生活に厭な雲ありて、才能の素直に発せざる憾みあった」に対して、『文藝通信』10月号に反論文を載せます。(青空文庫 太宰治 川端康成へ)
恥の多い生涯を送ってきました
『人間失格』の有名な一節です。自分のどうしようもなさをも無意識に武器にしている男・・・太宰治は、ダメなところさえもエレガントだと思わせる作家だとつくづく思いました。